RoboCup 2023 世界大会:Happy Robotチーム準優勝

図1 参加メンバー(左から筆者、山崎君、大西君、金澤君、出村さん)

概 要

2023年7月6日~7月10日までフランスのボルドー市で開催されたRoboCup2023世界大会に出場した金沢工業大学ロボティクス学科出村研究室Happy Robotチームが準優勝の成績を収めた。なお、金沢工業大学はRoboCup世界大会の中型ロボットリーグにおいて2002、2003、2004年準優勝している。@Homeリーグにおいては、2015年9位、2016年8位、2017年9位、2018年5位、5年ぶりの参加である今回が過去最高位であり、世界大会では19年ぶり通算4回目の準優勝である。

RoboCupは人工知能とロボットの研究開発を促進するための国際プロジェクトであり、第26回目の今大会には世界45ヶ国から競技者2500人、参加者15000人が参加した。RoboCupは世界最大のロボット競技会でもある。その中で、Happy Robotチームが参加した@Home Education Workshop and Challenge 2023(以降、@Home Education)は近い将来に家庭で人間の生活を助ける生活支援ロボットの研究開発を目的としている@Homeリーグの中で教育にフォーカスしたものである。@Home Educationには表1に示す8チームが参加した。参加者は中学校、高等学校の生徒、大学の学生からホビーイストまで幅が広いが、大学の学部生が多い。

表1 参加チーム

#チーム名組織備考
1Try ForeverMacau Pui Ching Middle School中国キリスト系私立中学校
2Happy Robot金沢工業大学ロボティクス学科出村研究室
参加学生は学部生(1年1名、4年2名)
3Stress OverflowRey Juan Carlos Universityスペインの公立研究大学
4FAMBOTMacau Pui Ching Middle School中国キリスト系私立中学校
5Lycee DaguinLycee Ferand Daguinフランスの高等学校
6Elettra Robotics TeamElettra Robotics Labイタリアのロボット愛好家による非営利団体
7ROBY AUC RoboticsThe American University in Cairoエジプトの私立研究大学
8Ri-one立命館大学

メンバー

Happy Robotチームのメンバー(図1)は次のとおりである。

  • ロボティクス学科 4年 金澤 祐典:リーダー、ソフトウェア(Task1)担当
  • ロボティクス学科 4年 大西 真気:ソフトウェア(Task2、Task3)担当
  • ロボティクス学科 1年 山崎 奏: ハードウェア担当
  • D.K.T.          出村 賢聖:メンター
  • ロボティクス学科 教授  出村 公成:指導教員

参加目的

@Home Educationは生活支援ロボットに関する研究開発の裾野を広げることが目的の一つであるが、新規参入チーム用の標準的なプラットフォーム(ロボット)が存在しない。これが解決すべき喫緊の課題である。Happy Robotチームは新規参入者向けの標準的なプラットフォームとなるロボットHappy Edu(図2)と世界大会で優勝を狙うためのカスタムバージョンであるHappy Mini(図3)を開発していた。その評価検証が参加目的である。

図2 Happy Edu

図3 Happy Mini

 

 

 

 

 

 

 

 

 

競 技

競技はStage1とFinalの合計点で競われる。金沢工大夢考房RoboCup@Homeチームは2022年、2023年のRoboCup Japan Open @Home Educationリーグで優勝、出村研究室チームは2023年の同大会で準優勝しており、今世界大会では優勝を目標とした。

(1) Stage 1

  • Presentation: 41.19点
    ポスターを使い各チームの特色、ハードウェア、ソフトウェア等についてプレゼンする。得点は各チームリーダーの相互評価で決まる。大西君が手振り身振りを使い英語で堂々とプレゼンして全8チーム中1位の成績であった。新規参入者のために自分たちの開発したハードウェアやソフトウェアをオープンにすることが各リーダーに評価されたと思う。
  • Task1: Carry My Luggage 350点
    ロボットが、主人のために外に停まっている車まで荷物を運ぶのを手伝う競技。日本での練習では850点を取っていたが、世界大会では、競技場の入り口に段差があり、各チームのロボットが乗り越えることができない設営の不備があり、急遽、競技場の外で実施することになった。床の凸凹が大きいためバッグを把持できず、場所が広すぎて地図をうまく生成できなかったので点数が350点と4位の成績で振るわなかった。
  • Task2: Find My Mates 575点
    ロボットが、客の名前しか知らない主人のために、パーティー客に関する様々な情報を収集して、主人に伝える競技。大学の練習場では900点を取っていたが、世界大会の競技場が約4倍広く、ロボットの移動に時間がかかり、競技終了時間中に時間切れになってしまい、575点と2位の成績だった。
  • Task3: Receptionist 550点
    ロボットが、2人の新しい客をリビングルームに連れて行き、彼らを主人に紹介し、空いている席に座ってもらう競技。練習では750点を取得していたが、競技場が広い点と操作ミスがあり、550点と3位の成績だった。

Stage1の結果を表2に示す。1位は中国のTry Foreverチームで合計2050.5点、2位はHappy Robotチームの1516.2点、3位はスペインのStress Overflowチームで1112.6点であり、1位とは約500点差がある。競技の成績はStage1、Finalがそれぞれ50点に換算され合計100点となる。1位のチームはStage1が50点で、2位の我々は37点となり13点の大差となった。これを挽回するのは厳しいが、メンバーはあきらめずFinalに臨んだ。

図4 Stage1 Carry My Luggageの競技風景

 

表2 Stage1の結果

#1.      チーム名プレゼンTask1Task2Task3
1Try Forever (中国)40.55507107502050.5
2Happy Robot (金沢工大)41.23505755501516.2
3Stress Overflow (スペイン)37.604256501112.6
4FAMBOT (中国)39.5450300200989.5
5Lycee Daguin (フランス)23.335060250683.3
6Elettra Robotics Team(イタリア)36.24000100536.2
7ROBY AUC Robotics (エジプト)36.93000100436.9
8Ri-one (立命館大)31.6040100171.6

 

(2) Final

各チーム持ち時間10分で、自分たちの開発したロボットについて自由にデモンストレーション付きでプレゼンする競技。デモでは物語性が要求される。

Happy Robotチームは、筆者の妻も参加していたので夫婦喧嘩をロボットHappy Miniが仲直りさせるというストーリーのデモを実施した。Happy Miniは、技術的にはChatGPTの中核技術である深層学習Transformerのマルチモーダルモデル(音声情報と画像情報)を使い、高い精度で人の表情、性別、年代等を認識できる。その技術を使い、夫婦の音声から感情を推定して、夫婦喧嘩が始まったら、ロボットが楽しい音楽をかけて喧嘩を止めるように仲裁に入り、夫婦の画像から表情を認識し笑顔になったら、全員で踊るというミュージカル仕立てのデモで、審査員を始め観客から大きな笑いと歓声を頂いた。

Finalでは1位のTry Foreverチーム32.5点より高得点の35.0点を獲得したが逆転ならず、総合順位2位、準優勝という結果となった(表3、図5、図8)。Happy Robotチームは記録より観客と審査員の記憶に残るFinalであったと考える。

表3 全競技結果

#チーム名Stage1Final
1Try Forever (中国)50.032.582.5
2Happy Robot (金沢工大)37.035.072.0
3FAMBOT (中国)24.140.364.4
4Stress Overflow (スペイン)27.125.052.1
5Lycee Daguin (フランス)16.727.544.2
6Elettra Robotics Team(イタリア)13.127.840.9
7ROBY AUC Robotics (エジプト)10.724.735.4
8Ri-one (立命館大)4.217.521.7

図5 表彰式 Happy Robotチーム準優勝(左から出村さん、金澤君、大西君、責任者のジェフリー博士)

終わりに

筆者は金沢工業大学チームの指導責任者として1999年からRoboCup世界大会に参加している。新型コロナの影響で、世界大会に出場するのは5年ぶり、通算14回目の世界大会であった。結果は、19年ぶりに準優勝の成績を収めることができた。

今回のチームの良かった点を列挙する。

  • 学生の頑張りで過去最高の準備状況であった。学内の練習場では目標の3タスク合計2500点を取得できた。これを達成するために学生は夜遅くまで開発に取り組んだ。
  • 新規参入者向けの標準となるプラットフォームの有効性を検証できた。特に、小型軽量なので機内持ち込み荷物として運搬できた。これにより輸送費がかからず、開発期間を長くすることができた。なお、ボルドー空港では預け荷物のロストが多発して、競技参加者の中には競技終了してから荷物がホテルに届いた人がいたそうである。
  • 技術レベルが参加チーム中一番高かった。ポスター発表を聞く限り最新のTransformerモデルを使用しているのは我々だけだった。具体的な内容については図7のポスターを参照して頂きたい。
  • @Home Educationに出場中、顔がついているロボットはペッパーとHappy Edu、Happy Miniの3台だけであり、しかも、Happy Miniは表情を変えることができる。観客からとても人気があり、フランスのメディア(チャンネル2)から取材を受けた。生活支援ロボットは人間と接する。親和性を高め、人間と効率的なインタラクションを図るためには顔が極めて重要であると考える。

来年の世界大会はオランダのエイントホーフェン (Eindhoven) 市で開催される。優勝するためには次の3点が必要だと考えられるのでしっかり準備して臨みたい。

  • 世界大会に準じた環境でのロボット開発
  • ロボットのハードウェアとソフトウェアシステムの高い安定性
  • 参加メンバーの増強

図6 ボルドーらしいRoboCup Symposiumのランチ

謝 辞

RoboCup2023世界大会に出場し準優勝できたのは次のスポンサー様のご支援によるものです。御礼申し上げます。

  • ダイヤモンドスポンサー:技研株式会社 様
  • プラチナスポンサー:三光合成株式会社 様
  • プラチナスポンサー:KYB株式会社 様
  • プラチナスポンサー:株式会社アイ・オー・データ機器 様
  • プラチナスポンサー:小松電子株式会社 様
  • ゴールドスポンサー:アイナックス稲本株式会社 様
  • シルバースポンサー:ライオンパワー株式会社 様
  • シルバースポンサー:高島産業株式会社 様
  • ブロンズスポンサー:立山科学株式会社 様

図7 Happy Robotチームのポスター

 

図8 賞状 RoboCup2023 @Home Education 2位 Happy Robotチーム

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