夢考房の問題点として挙げられる点は、夢考房に所属している学生とそれ以外の学生との乖離です。夢考房に所属している学生は全学生の5%程度です。夢考房は一種のエリート教育になっている可能性がありますが、夢考房に所属している学生達に聞いたところエリート意識を持っている学生は少ないです。ところが、一般の学生から見ると夢考房所属学生は自分達とは違うエリート、あるいはエリートとは思わないまでも違う種類の人間に見えるようです。
大学としては在学生の多くの方に夢考房で得ることができるような教育効果を与えることが重要です。石川学長はこれを金沢工大の夢考房キャンパス化と提唱しています。ただ、これを実現することは簡単ではありません。夢考房の大衆化が進み全学生の数割(現在約8000名弱)が加入するようになると今の組織では対応できません。専任技師も増員しなければならなくなりますし、指導教員も確保できるかどうかわかりませんし、プロジェクト運営費も寄付だけで賄えるのが難しくなります。
資金的な問題以外にも教育形態(実習主体、座学主体、ディスカッション主体など)と一クラスの学生数の問題があります。現在、最もメンバーの多いプロジェクトでもせいぜい50名程度です。私が指導しているロボカッププロジェクトは2003年は20名程度に増えましたが、それまでは10名程度のアットホームな雰囲気でやっていました。日本の教養教育がうまくいかなかった原因の一つはクラスのサイズが多すぎたことだと思います。米国のリベラルアーツ教育で評価の高い大学は一クラス20名程度です。MITなどは教育の質を維持するため今年度から定員を1学年約1000名に削減しました(本学は約1500名)。夢考房は新しい教育システムなので、教員と技師各1名に対して何名までの学生ならその教育効果を保てるかということはとても興味深い問題の一つです。
金沢工大、夢考房は今年度いろいろなメディアで取り上げられ受験者が昨年の約2倍になりました。おそらく、来年度、夢考房に大勢の新入生が押し寄せるでしょう。プロジェクトのメンバーが増えたところで急に技師や教員の人数、予算が増えるわけではありません。夢考房の教育効果を落とさず、そのことに如何に対応するかが当面の課題となります。それを克服すると夢考房キャンパス化も夢ではなくなります。