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金沢工業大学独自の教育システムで、学生が自由にモノ創りに取り組め、それをサポートするために1993年に作られました。夢考房がうまく機能している理由の一つとして、夢考房プロジェクトが挙げられます。夢考房ウェッブサイトでは「夢考房プロジェクトは学年・学科の垣根を越えたチーム編成で、ひとつのテーマを通してお互いの知識を集結させ毎日、創作活動に取り組んでいます。」と定義されています。
簡単にいうと、文科系クラブ(モノ創り関係に限定)を大学が強力に支援したものといえるでしょう。肝要な点は、文科系クラブと同様に学生の自主性が最大限尊重され実質的には学生がプロジェクトを運営し、教職員はそれのチェックをし、各プロジェクトの活動並びに成果に応じて予算等が割り振られるため、競争原理が働いている点です。現在、夢考房プロジェクトは全部で15あり 、大部屋で活動しているのでプロジェクト間の交流は盛んですが、ライバル意識も強いものになっています。
なお、夢考房は夢工房の誤字ではありません。夢考房やKITは金沢工業大学により商標登録されています。また、夢考房のローマ字表記はYumekoboが正しく、Yumekoubouは正しいヘボン式ではありません。パスポートの名前と同じです。
背 景
工学と科学の違いは何でしょうか?よく一般にいわれることは科学は「神が創ったものを知る」学問であり、工学とは「ものを創る」学問で す。科学者(サイエンティスト)の中にはは工学者(エンジニア)を低いものとして見る人もいますが、決して貴賎があるわけではなく21世紀は両者が協力していく時代です。
話を戻して、工学は新しいものを創造する学問なので講義で各種理論を習い断片的な知識を得るだけでは十分に身に着けることはできません。習得した理論や知識を有機的に関連付け,実際に「もの創り」に関する一連の過程を経験することで初めて工学を理解することができると 私は考えています。言葉を変えると工学は体得するものなのです。
金沢工大では上述した理念の基,課外時間に学生が「もの創り」を実践でき「夢を考えて形にする場」さらに「知的な感性工作空間」として,1993年7月に夢考房を設立 しました。夢考房では学生が積極的に「もの創り」を実践できるように以下の事項を提供しています。
場
夢考房は学生が授業後や休日に自由に使用可能なように年間340日,通常は平日午前8時45分から午後9時まで,休日は午前9時30分から午後5時まで開館し,申請すれば24時間利用可能な体制を取っています。なお,夢考房関連施設は2棟あり延べ床面積は3000m2で す。
施設では以下の道具や材料を提供しています。 工作機械:旋盤,フライス盤,ボール盤,板金,溶接,木材・樹脂加工機械
プリント基板:ドリラー,プロッタ,エッチングマシン,ソルダマスクステーション
計測機器:テスタ,オシロスコープ,ノギス,マイクロメータ
プレゼンテーション機器:コピー機,ビデオ編集器,プリンタ,A0プロッタ
パーツショップ:電子部品,工作部品,加工用素材
技 師
夢考房の特色は何といっても約20名の優秀で人間的に素晴らしい常勤技師達です。彼らは(女性もいます)金属加工,電気,溶接,板金,木工,工業デザイン,FA,マイコンなどの専門家です。また、多くの技師が本学のOB、中には夢考房のOBもいます。そういうこともあるのでしょうか、学生は技師から「もの創り」に関する技術的アドバイスを懇切丁寧に受けることができます。
安全対策
モノ創りの現場で最も重要なことは安全です。夢考房では安全管理に関しては万全を期しています。具体的には,旋盤,フライス盤などの工作機器を使用するためには安全講習会などに参加して各機器の学内免許を取得 しなければなりません。さらに,頻繁に技師が安全パトロールを実施し自由に使用できる雰囲気を維持しながら,安全な工作環境を作り出すよう努力しています。
また,イエロージャンパーと呼ばれている約25名の学生スタッフも安全管理に大きな役割を果たしています。彼らは安全管理者代行として辞令を交付され,工具や部品などの在庫管理の業務はもちろん,一般学生に対して工作機械の安全な使用法を説明したり,場合によっては注意を促したりなど しています。彼らは今や夢考房にとって不可欠な存在となっています。
夢考房プロジェクト
夢考房には「夢考房プロジェクト」と呼ばれる学生の創作グループがあり,それへの支援も重要な活動の一つで す。これについては夢考房プロジェクトのページをご覧ください。
夢考房ではどのような教育効果があるでしょうか?工学的な知識や技能を身につけることはいうまでもありませんが、一番重要な効果は社会に出てから必要にな社会人として生きていく力の鍛錬だということです。アメリカにいて感じることはアメリカ人はよく話し会うということです。これは何も大学だけではなく、一般の人も話あっているのをよくみかけます。別に内容が高尚というわけでもありませんがとにかくよく話しあいコミュニケーションをとりあっています。MIT(マサチューセッツ工科大学)が東大や京大と決定的に違う点があります。それは学生の多くが寮に住んでいる点です。個室はとても高いので多くの寮の部屋は相部屋です。寮というのもコミュニケーションやディスカッション能力を鍛錬するうえで重要です。夢考房は寮を完備していませんが、グループ活動を通じてそういった能力が鍛錬されるのだと思います。
人間形成の場
夢考房は,単に「もの創り」に必要な知識や技能を身に付ける場ではなく,現在の高等教育が十分に対応できていない「人間形成」の場で す。アメリカの大学では人間形成としてリベラルアーツ(一般教養)が重要視されています。そういった大学の多くは一クラス20名前後と少人数でディスカッションを中心として教育を行っています。日本の大学で一般教養教育がうまくいかなかったのは、大学発生の歴史的背景と教養の持つ価値観とそれを大人数でやろうとした点にあると考えます。金沢工大では建学当時から綱領として「高邁なる人間形成」つまり「人間味豊かな技術者,研究者として、高い道徳心と国際感覚を持った創造的で個性豊かな人材の養成を目指す」と述べ他大学ではやらないような一風変わった教育があります。 夢考房もその一つで、教職員が学生にその理念を押し付けるのではなく,夢考房活動を通して学生がその重要性に自然と気がつく人間形成の場となっています。
自主自立の精神
各プロジェクトの運営は,学生の手にゆだねられ予算管理,工程管理,部品発注など全て学生が実施しています。これは大会参加手続き,部品発注や予算の執行だけ ではなく、教育においても当てはまります。学生達は定期的に勉強会などを開催し必要な知識習得に努力しています。教職員はサポート役に徹していて多少の失敗は分かっていても,学生の自由な発想を尊重し,できるだけ彼らがやりたいようにやらせてい ます。当然学生は成功するときもありますが、失敗も数多くします。これでいいのです科学で一番重要なことは試行錯誤を重ねて、あきらめずに真理を探究することにあります。学生は失敗を通して学び 、次回は必ず改善に結びつけています。夢考房プロジェクトは自主自立の精神の基、運営されています。夢考房の学生は一般の学生と比較して非常に積極的で目の輝きが違ってい ます。
創造的な才能の育成
「もの創り」の基本姿勢として「設計から製造まで全て学生の手で実施する.」ことと「新しい技術に挑戦する(他人の真似をしない)」ことに重点をおき、創造的才能の育成を目指してい ます。 成果も少しずつ現れてきていて、競技会等での技術賞受賞や特許を出願しているプロジェクトもあります。
マネージメント能力夢考房プロジェクトは会社でのプロジェクトワークを小さくしたようなものです。学生は身をもってチーム活動を経験し、その活動を通じてリーダーシップ、フォロアーシップ 、マネージメント能力の大切さや難しさを実感し試行錯誤を重ねることにより、それらの能力を身に付けます。夢考房は実社会へ出る前の貴重な体験の場と なっています。
モラルプロジェクトの成功にはマネジメント能力がとても重要です。その最も基本となるのが時間厳守です。ソーラーカーでは「5分前の精神」が浸透していると聞きます。これによって単に時間を守る習慣を付けることに留まらず,全てに余裕を持って行動できるようになることを狙っている そうです。また,挨拶も人間関係の基本です。夢考房へ行くと著者の知らない学生も積極的に挨拶や会釈をしてきます。
さらに,安全管理上とても重要なことですが、夢考房では整理整頓が徹底されています。最近はこの伝統が学生に受け継がれて,学生同士が切磋琢磨しており,夢考房活動を通じて自然と道徳や規則が守られるようにな っています。
人脈の構築
本学は,地方の単科大学であり金沢にいるだけではどうしても見識が狭くなってしまいます。夢考房プロジェクトの多くは競技会に参加します。大会に参加すると日本や世界の大学の学生や先生,企業や研究所などの研究者らと知り合う機会を持つことができ見識が広ま ります。また,社会に出て非常に重要なことはいかにして優れた人脈を築くかということです。ロボカップの学生は、大会参加時に名刺を持参し,一大会で最低一人知人を作ることを目標に大会に参加してい ます。夢考房の卒業生の中には大学時代培った人脈を十二分に活用して外資系企業に就職したものもいます。
自尊心・愛校心・愛国心
夢考房プロジェクトの利点は,国内大会参加のための支援や,国内大会で結果を出し,実績が認められると国際大会参加への道が開かれる点です。
国内大会に参加することにより夢考房の学生は自分達が金沢工業大学を代表していることを意識するようになります。国内大会である程度の実績を上げると,学生は自信に満ち溢れ,金沢工業大学の学生であることに誇りを持ち,愛校心を覚えるようにな ります。面白いことに実績を上げるまではこのような現象を見ることができません。
世界大会に参加すると自分が日本人であることを再認識し,日本人として確固たる精神で大会に臨み、試合で世界の強豪チームを破り,勝ち進むにつれ愛国心を覚えるようにな りました。これは,2002年のサッカーワールドカップで日本の若者が自発的に国旗を振って日本代表を応援していたことと同じ理由だと考えられます。教職員が自尊心,愛校心,愛国心を持てと学生に説教したところで何の効果も ありません。そういったことに気がつく環境を学生に与えることが重要なことです。
国際性の涵養
夢考房ロボカッププロジェクトが参加しているロボカップ世界大会では,大会期間中はルールや審判の判定などについての会議が毎日開催され 、その場で世界各国のチーム代表者らが英語で白熱した討論を繰り広げています。そのような場所に参加した学生は,確固たる信念,語学力並びに交渉力の必要性を痛感し 、国際性を養うことができます。学部学生時代からこのような経験をできること自体教育上非常に重要なことで す。
夢考房プロジェクトが今のところ順調に成果を挙げている秘密は何だと思いますか?こういう話をすると「要はお金でしょ」という人がいますが、必ずしもそうではありません。確かに常勤技師を雇用しなければいけませんし、施設も必要です。プロジェクトの運営費も必要なのでお金がかかることは事実です。でも、いくらお金をかけたところで同様な教育効果を挙げることは難しいと考えます。本学では夢考房の設立と同時に、機械科の実習工場を潰していますので実習工場の技師の雇用費をそれほどかわらないとある理事は話していました。また、プロジェクトの運営費は企業とOBからの寄付で賄っています。
今のところうまくいっている秘密に話を戻すと、まだ定量的なデータをとっていないのではっきりしたことはいえませんが主に以下の2点だと考えています。
単純にいうと学生と技師の力をうまく引き出している非常に巧妙なシステムが夢考房なのです。
夢考房の問題点として挙げられる点は、夢考房に所属している学生とそれ以外の学生との乖離です。夢考房に所属している学生は全学生の5%程度です。夢考房は一種のエリート教育になっている可能性がありますが、夢考房に所属している学生達に聞いたところエリート意識を持っている学生は少ないです。ところが、一般の学生から見ると夢考房所属学生は自分達とは違うエリート、あるいはエリートとは思わないまでも違う種類の人間に見えるようです。
大学としては在学生の多くの方に夢考房で得ることができるような教育効果を与えることが重要です。石川学長はこれを金沢工大の夢考房キャンパス化と提唱しています。ただ、これを実現することは簡単ではありません。夢考房の大衆化が進み全学生の数割(現在約8000名弱)が加入するようになると今の組織では対応できません。専任技師も増員しなければならなくなりますし、指導教員も確保できるかどうかわかりませんし、プロジェクト運営費も寄付だけで賄えるのが難しくなります。
資金的な問題以外にも教育形態(実習主体、座学主体、ディスカッション主体など)と一クラスの学生数の問題があります。現在、最もメンバーの多いプロジェクトでもせいぜい50名程度です。私が指導しているロボカッププロジェクトは2003年は20名程度に増えましたが、それまでは10名程度のアットホームな雰囲気でやっていました。日本の教養教育がうまくいかなかった原因の一つはクラスのサイズが多すぎたことだと思います。米国のリベラルアーツ教育で評価の高い大学は一クラス20名程度です。MITなどは教育の質を維持するため今年度から定員を1学年約1000名に削減しました(本学は約1500名)。夢考房は新しい教育システムなので、教員と技師各1名に対して何名までの学生ならその教育効果を保てるかということはとても興味深い問題の一つです。
金沢工大、夢考房は今年度いろいろなメディアで取り上げられ受験者が昨年の約2倍になりました。おそらく、来年度、夢考房に大勢の新入生が押し寄せるでしょう。プロジェクトのメンバーが増えたところで急に技師や教員の人数、予算が増えるわけではありません。夢考房の教育効果を落とさず、そのことに如何に対応するかが当面の課題となります。それを克服すると夢考房キャンパス化も夢ではなくなります。
